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 塩素系溶剤〔トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン(ジクロロメタン)〕は、不燃性、高い溶解性等の優れた特性から、脱脂洗浄等の各種用途分野で広く用いられています。

 当協会は「クロロカーボン適正使用ハンドブック」等の作成、セミナーの開催等を通じて、正しい使用方法の普及に努めて参りましたが、残念なことに有害性が強調されるあまり、例えば「環境ISO(ISO 14001)の認証取得をするので塩素系溶剤が使えなくなる」というような誤解が一部で起こって来ています。また、近々使用禁止になるとの根拠のない風評も出ています。

 この冊子は、塩素系溶剤について、その特性、適切な使用設備と適正な使用・管理、法規制、健康影響等に対する正しい理解のもとで環境に配慮することにより、今後ともご使用いただくことを目的に作成したものです。




塩素系溶剤の製造、使用、廃棄等には種々の規制が課せられていますが、禁止されてはいません。適正に使用すれば今後も禁止されることはないと考えられます。また、ISO 14001の取得で禁止されることはありません。外国でも規制はありますが、使用が禁止されている訳ではありません。
 

 1.1 国内における法規制の概要

 塩素系溶剤は、製造・使用・廃棄等に色々な規制が課せられています。塩素系溶剤を規制している法令で主なものは、
 (1)大気汚染防止法:大気中への排出量を規定
 (2)水質汚濁防止法:公共水域への放出量を規定
 (3)廃棄物の処理及び清掃に関する法律:廃棄物の適正な処理を規定
で、その他土壌・地下水汚染、化学物質管理、作業環境管理、表示等で様々な規制がなされています。

 また、人の健康の保護と生活環境の保全の立場から望ましい基準として環境基準が別に定められています。しかし、製造や使用は禁止されていません。適切に管理すれば将来的にも禁止されることはないと考えられます。塩素系溶剤に適用される規制基準につきましては次ページの図をご参照下さい。

 1.2 外国での規制

 米国やEU諸国は、日本と同様に、塩素系溶剤に色々な規制が課せられていますが、製造や使用は禁止されていません。日本での管理と同様に、各国の法令に従い適切に管理すれば将来も使用することは可能と思われます。
 

 1.3 環境マネージメント規格

 環境マネージメント規格(ISO14001)は、環境管理のためのシステムを規定しています。環境負荷の低減等をシステムに従って実施し、継続的改善を図るシステムです。物質(塩素系溶剤)の使用を禁止する或いは制限する規定は含まれていません。従って、ISO14001の規格を取得したからといって、塩素系溶剤の使用を中止する必要はありません。
 

 塩素系溶剤は、有害性の研究がすすんでおり、未知のリスクがほとんどありませんので、適正に管理して使用すれば問題はありません。

 2.1 未知のリスクが少ない

 化学物質のリスクを構成する有害性の評価項目としては、
 (1)ヒト健康影響:急性毒性、慢性毒性、生殖毒性、発がん性等
 (2)環境生態影響:生分解性、濃縮性、魚毒性等
 (3)フィジカルハザード:可燃性、自己反応性、腐食性等
等があります。
 塩素系溶剤については、これらのほとんどの項目についてデータが明らかになっており、未知のリスクが非常に少ないといえます。

 2.2 適正使用がポイント

 一般的に化学物質は有用性と共に、潜在的に危険・有害性を持っており、塩素系溶剤も例外ではありません。化学物質が環境を経由して人の健康や生態系に悪い影響を及ぼす恐れのある可能性(環境リスク)は、化学物質の有害性の程度とどれだけ化学物質に接したか(暴露量)で決まります。

化学物質の環境リスク=有害性×暴露量

 すなわち、有害性の高い物質であっても極微量の暴露であれば、悪影響が及ぶ可能性は低くなります。塩素系溶剤の使用に当っては、保護具の着用、取扱方法・設備の適正化を行うことが重要になります。一方、作業現場での暴露量の指標として作業環境濃度測定に基づく管理濃度が労働安全衛生法で定められており、この濃度以下に管理することで安心してご使用いただけます。


 塩素系溶剤は温室効果ガスでなく、オゾン層破壊物質でもありません。光化学スモッグの原因としても無視できます。また、大気中の寿命が短く、長期にわたり大気中に存在することはありません。

 3.1 塩素系溶剤の大気中濃度推移

 塩素系溶剤は、環境基本法で決められている環境基準と比較して遥かに低いレベルで、しかも各方面の努力と協力によりそのレベルが年々減少していることが次図のとおり大気環境モニタリング調査でも確認されています。

  

 3.2 大気中の塩素系溶剤

 塩素系溶剤は、揮発しやすい液体です。また、大気に放出された場合、その寿命は比較的短く1週間から5ヶ月と推定されています。このために、大気中に蓄積される可能性が少なく、オゾン層を破壊する恐れがありません。

 また、温室効果についても地球温暖化係数は炭酸ガスの5〜10倍程度で、大気中の存在量を考慮すれば、地球温暖化の原因物質としては無視できるレベルであると言えます。
 

大気中寿命、オゾン破壊係数、地球温暖化係数

 

寿命(年)

オゾン破壊係数

地球温暖化係数

トリクロロエチレン

   0.018

   0.005

5

テトラクロロエチレン

   0.36

   0.005

12

塩化メチレン

   0.41

   0.007

9

炭化水素溶剤

   −

   0

5〜50

CFC-113

   96

   0.8

5000

                        (注)オゾン破壊係数はCFC-11を1とした場合の相対値
                           地球温暖化係数は炭酸ガスを1とした場合の相対値
 

 3.3 塩素系溶剤と光化学スモッグ

 光化学スモッグとは、夏の日中に紫外線により酸化力の強いオゾンやオキシダントが生成し人体や動植物に色々な被害を及ぼす現象です。オゾンやオキシダントの原因物質として、窒素酸化物や炭化水素が取り上げられています。また、炭化水素からのオキシダント発生係数が調べられており、脂肪族・芳香族炭化水素,ケトン類,エステル類などが大きな係数を有しています。

 塩素系溶剤の発生係数は、遥かに低く大気環境モニタリング調査の結果を考え合わせると塩素系溶剤の影響は無視できるものです。

光化学生成係数(エチレン=100として)

物 質 名

係  数

  脂肪族   メタン
        エタン
        プロパン
        エチレン
        プロピレン

    3.4
    14.0
    41.1
   100.0
   107.9

  芳香族   ベンゼン
        トルエン
        m-キシレン

    33.4
    77.1
   108.8

  ケトン類  アセトン
        メチルエチルケトン
        メチルイソブチルケトン

    18.2
    51.1
    84.3

  エステル類 メチルアセテート
        エチルアセテート

    4.6
    32.8

  塩素系溶剤 トリクロロエチレン
        テトラクロロエチレン
        塩化メチレン

    7.5
    3.5
    3.5

(注)メタンはオキシダントを生成する揮発性有機化合物(VOC)とはされていません





 塩素系溶剤は大気中では早く分解しますので、大気中での残留或いは蓄積の問題はありません。しかし、間違って土壌にこぼしたり、排水溝に流出したりしてしまうと、地中深くまで浸透してしまいます。これが土壌汚染の原因になります。

 4.1  地中では極めて分解しにくい

 塩素系溶剤が無害なものに分解されるためには、光・酸素などが必要です。ところが地中には光はなく、酸素も少ないのです。また、塩素系溶剤には水に対する安定性があって、土壌に水分があっても分解されにくいのです。このため土壌に浸透してしまうと長期間分解されずに滞留してしまうことになりますから注意が必要です。

 4.2 土壌汚染は過去の不適切な取扱が原因

 近年、塩素系溶剤による地下水汚染、土壌汚染が問題になっていますが、その原因のほとんどは20年以上も前に、塩素系溶剤を不用意に排出してしまったことによります。当時はそのことが土壌汚染から環境汚染につながることが判っていませんでした。

 現在では塩素系溶剤の製造現場、使用現場では床面を不浸透性のある床材にして土壌への浸透を防いでいます、さらに金属製の受け皿を設けたり、排水溝に排水枡を設けたりして、万一誤って塩素系溶剤が流出しても土壌に浸透することを防ぐ二重の防止措置を講じています。





 塩素系溶剤は一般に水系洗浄剤よりエネルギー消費が少なく、炭化水素系、水系等の洗浄剤と比較すると洗浄性能が優れ、環境影響の少ない溶剤です。

Ecobilan S. A.(Paris)は、トリクロロエチレンと水系洗浄剤による金属部品の脱脂洗浄におけるライフサイクルアセスメントを実施−

  溶剤系(トリクロロエチレン)と水系の選択について以下のように結論付けている。
  ・被洗浄物の乾燥が必要ない場合は水系がベストな選択
  ・清浄で乾燥した部品が必要な場合は溶剤系がベストな選択



 5.1 他の洗浄剤との比較

 塩素系溶剤は水系洗浄剤や炭化水素系洗浄剤と比べると

 (1)沸点が低く蒸発潜熱が小さい為、乾燥工程時のエネルギー消費量が少ない
 (2)表面張力が小さい為、部品の細部に至る洗浄が容易である
 (3)汚れ(特に油分等)との親和性が大きく、高い清浄度が得られる
 (4)有害性が高い為、暴露防止管理が必要である

 等の特徴を有していると言えます。
 詳しくは以下の表をご参照下さい。

各種洗浄剤の特徴・特性比較

 

塩化
メチレン

トリクロロエチレン

テトラクロロエチレン

炭化水素系

準 水 系

水 系

脱脂力

乾燥性

×

×

錆び・シミ

×

×

毒性

×

×

×

引火性

×

洗浄剤コスト

設備コスト

×

×

排水処理

×

×



 5.2 洗浄システムでの比較

 塩素系溶剤は環境中への漏洩、排出管理が必要ではありますが、温暖化の観点からは環境にやさしい溶剤と言えます。たとえば、被洗物の種類や洗浄条件等による違いはあるものの、バッチ式精密金属洗浄におけるエネルギー使用量と温暖化影響度は、水系や準水系での洗浄より、ともに半分程度の数値であります。

 

 次表をご参照下さい。

 

塩素系洗浄剤と水系洗浄剤との比較

洗浄システム

塩  素  系

水 系 例

準水系例

塩化メチレン

トリクロロ
エチレン

テトラクロロ
エチレン

エネルギー(*1)

  10.1

  7.8

  8.4

  17.4

  19.5

温暖化影響(*2)

  76.3

  58.9

  64.1

 115.5

 144.8


               
(*1)洗浄時の電気エネルギー使用量(kWh/hr)
               
(*2)全洗浄プロセスに於ける温暖化影響を炭酸ガス発生量で評価
               
   (kg-CO2/t-Metal)

 

 

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 クロロカーボン衛生協会では、他の溶剤には置き換え難い特徴を有する塩素系溶剤を末永くご愛用いただくために、各種法規制に則った適正な使用と管理方法の普及、ひいては環境汚染の防止を積極的に推進しています。


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